個人の節税ガイド|個人事業主・フリーランスの節税策を体系的に整理

このガイドは、個人事業主・フリーランスの方が使える節税策を、実行する順番に並べたロードマップです。
はじめに、このガイドでの「節税」の定義をはっきりさせておきます。税金を減らすことではなく、手元に残るお金を最大化することです。税金が減っても、それ以上に現金が出ていけば意味がありません。だからステップ1はお金を使わずに効くものから始め、支出をともなうものは後ろに置いています。ご注意(2026年9月時点):金額・要件・期限は2026年9月時点で確認した内容です。税制は毎年変わり、とくに令和9年分から青色申告特別控除の要件が大きく変わります。実行前に最新の情報と、ご自身の状況にあてはまるかをご確認ください。個別の判断は状況によって結論が変わります。

ステップ1 記帳と申告の体制を整える

このステップのゴール:お金を使わずに効く節税を先に全部とる。青色申告の控除は、体制さえ整えれば毎年自動でついてきます。
令和9年分から、青色申告特別控除の要件が変わります

控除額が引き上げられる一方で、e-Taxでの申告が要件に加わります。書面で申告している方は、何もしないと控除額が大きく下がります。

記帳・申告のしかた令和8年分まで令和9年分から
複式簿記+e-Tax+優良な電子帳簿等65万円75万円
複式簿記+e-Tax65万円65万円
複式簿記+書面で提出55万円10万円
簡易簿記(前々年の収入1,000万円超)10万円0円

出典:国税庁「令和9年分から青色申告特別控除はどう変わる?」(後掲の参考情報)。いま書面で申告している方ほど、このステップの優先度が高くなります。

01青色申告の承認を受ける3月15日まで

青色申告承認申請書を税務署に出さなければ、控除はゼロです。提出期限は適用を受けたい年の3月15日まで、その年の1月16日以後に開業した場合は開業から2か月以内です。
期限を1日でも過ぎると、その年は白色申告になります。まだ出していない方は、他のどの節税策より先にここを片づけてください。

→ 開業届と青色申告承認申請書の出し方を読む
→ 青色申告のメリットを読む
02複式簿記とe-Taxの体制をつくる早いほどよい

65万円控除には、複式簿記による記帳と、貸借対照表・損益計算書を添えて期限内に申告することが必要です。令和9年分からは、これにe-Taxでの提出が加わります。
複式簿記は手書きでは大変ですが、クラウド会計ソフトを使えば日々の入力がそのまま複式簿記になります。e-Tax送信まで同じソフトで完結するため、体制づくりはソフト選びとほぼ同義です。

→ freee導入ガイドを読む
→ はじめての青色申告 準備ガイドを読む
0375万円控除を狙うか判断する令和9年分に向けて

令和9年分から新設される75万円控除は、65万円の要件に加えて「優良な電子帳簿」またはデジタル完結での保存が必要になります。65万円との差は10万円分の所得控除です。
いま使っている会計ソフトが対応していれば設定だけで済むこともあれば、届出や運用の見直しが必要なこともあります。差額10万円と、追加で必要な手間を見比べて決めてください。65万円までで十分という判断も、十分に合理的です。

04家族への給与を経費にする3月15日まで

生計を一にする家族に払う給与は、原則として経費になりません。例外が青色事業専従者給与です。届出書を3月15日まで(年の途中で専従者がいることとなった場合はその日から2か月以内)に出しておく必要があります。
要件は、15歳以上・その年6か月を超えて専ら事業に従事していること。そして金額が労務の対価として相当であることです。相場からかけ離れた金額は、過大な部分が経費として認められません。

→ 青色事業専従者給与とは(要件・届出・注意点)を読む
05家事関連費の按分を決める運用のはじめに

自宅兼事務所の家賃や光熱費、携帯電話代など、事業と私生活の両方に関わる支出を家事関連費といいます。経費にできるのは、業務に必要な部分を明らかに区分できる場合の、その区分できる金額に限られます。
大事なのは割合そのものより、その割合にした根拠を残しておくことです。面積、使用時間、日数など、説明できる基準で一度決めたら、毎年同じ基準で通してください。

→ 自宅兼事務所の経費按分ガイドを読む

ステップ2 所得控除を積み、出口を設計する

このステップのゴール:課税所得を下げながら、将来の自分にお金を移す。あわせて受け取り方まで先に決めておく。
01小規模企業共済に入る検討は早いほどよい

個人事業主の退職金づくりの制度です。掛金は月1,000円〜7万円(年間最大84万円)で、全額が所得控除になります。受け取るときは、一括なら退職所得、分割なら公的年金等の雑所得として扱われます。
注意点は途中でやめたときです。掛金の納付月数が12か月未満だと解約手当金がなく、240か月(20年)未満で任意解約すると掛金の合計を下回ります。長く続けられる金額から始めてください。掛金は後から増減できます。

02iDeCoを使う2026年12月に枠が拡大

個人事業主(国民年金第1号被保険者)の拠出限度額は月6.8万円で、掛金は全額が所得控除、運用益も非課税です。この枠は国民年金基金や付加保険料と合算である点に注意してください。
2026年12月1日から、この共通枠が月7.5万円に引き上げられます。掛金の見直しを考えている方は、この時期にあわせて検討するとよいでしょう。ただし原則60歳まで引き出せないため、当面の運転資金まで回さないことが前提です。

→ 小規模企業共済・iDeCo・NISAの使い分けを読む
03国民年金基金・付加年金を検討する年金の上乗せとして

どちらも国民年金に上乗せする制度です。付加保険料は月400円で、将来の年金額が「200円×納付月数」だけ毎年増えます。2年受け取れば元が取れる計算です。国民年金基金の掛金は月6.8万円が上限で、iDeCoとの合算枠になります。
国民年金基金と付加年金は併用できません。少額から確実に効くものを求めるなら付加年金、掛金を厚く積みたいなら基金、という分け方が目安です。

04保険料控除・医療費控除をとりこぼさない年末〜確定申告

生命保険料控除は、一般・介護医療・個人年金の3区分で合計12万円が上限です。令和8年分は、23歳未満の扶養親族がいる場合に一般生命保険料控除の上限が6万円に拡大されています(合計12万円の上限は変わりません)。
医療費控除は、通常の医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらか一方を選びます。家族全員分をまとめて集計してから、有利なほうを選んでください。

05受け取り方の順序を先に決める掛ける前に考える

共済やiDeCoは、掛けるときより受け取るときのほうが税額差が大きくなることがあります。とくに退職所得控除は、複数の一時金を近い時期に受け取ると重複部分が排除される仕組みです。
ここは令和8年分から取扱いが変わりました。iDeCoの老齢一時金を受け取った後に他の退職手当等を受け取る場合、従来は5年空ければよいとされていた間隔が、10年(前年以前9年内が重複排除の対象)に延びています。受け取り年齢の設計は、早い段階で税理士に相談してください。

→ 退職金の税負担が変わる?退職所得控除の調整ルール変更を読む
06ふるさと納税は「節税」ではないと知っておく12月まで

ふるさと納税は税金が減る制度ではなく、納める先を移し替えて返礼品を受け取る制度です。自己負担は2,000円で、控除される上限は所得と家族構成で決まります。手取りには効きますが、節税策と並べて考えると判断を誤ります。
なお2025年10月から、ポイントを付与する仲介サイトを通じた募集は禁止されています。以前のポイント還元を前提にした損得計算は、もう当てはまりません。


ステップ3 消費税の選択

このステップのゴール:2割特例の終了に備え、次の2年間と、その後の課税方式を決めておく。
2割特例は令和8年9月30日で終わります

インボイス登録により免税事業者から課税事業者になった方の負担を軽くする2割特例は、令和8年9月30日までの日の属する課税期間で終了します。個人事業者の場合、適用できる最後は令和8年分(令和9年3月申告分)です。
その後、個人事業者に限り、令和9年分・令和10年分の2年間について3割特例(売上にかかる消費税額の3割を納める)が設けられました。法人にこの後継措置はありません。いずれも事前の届出は不要で、確定申告書に付記します。

01自分が課税事業者かどうかを確認する毎年はじめに

消費税は、原則として前々年(基準期間)の課税売上高が1,000万円を超えると納税義務が生じます。インボイス登録をしている場合は、売上規模にかかわらず課税事業者です。
まずは自分がどちらなのかをはっきりさせてください。ここが曖昧なまま特例だけを検討しても、判断できません。

→ インボイス登録すべき?判断基準を読む
023割特例を使えるか確認する令和9年・10年分

3割特例の対象は、2割特例と同じくインボイス登録により課税事業者となった個人事業者です。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年は使えません。
届出は不要で、確定申告書に付記するだけです。令和9年・10年分の2年限りなので、その先の課税方式(本則か簡易か)を、この2年のうちに決めておく必要があります。

→ 令和8年度インボイス制度改正のポイントを読む
03簡易課税を選ぶか決める特例の期間中に

特例が終わったあとは、本則課税(売上の消費税から仕入れの消費税を引く)か簡易課税(売上とみなし仕入率で計算)を選ぶことになります。仕入れや外注が少ない業種ほど、簡易課税が有利になりやすい傾向があります。
2割特例・3割特例を使った事業者には、簡易課税選択届出書の提出期限に特例が設けられています。特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間の申告期限までに出せば、その翌課税期間から簡易課税を適用できます。

04帳簿の税区分を正確につける日々

本則課税を選ぶ場合、日々の取引にどの税率・税区分を付けたかが、そのまま納税額に直結します。期末にまとめて直すのは現実的ではありません。
会計ソフトの自動提案に任せきりにせず、10%・軽減8%・不課税の区別と、相手方の登録番号の有無だけは登録時に確認する習慣をつけてください。

→ 消費税の税区分の選び方を読む

ステップ4 毎年の段取りと注意点

このステップのゴール:期限を逃して打ち手が消えることを防ぐ。そして、やらないほうがいい節税を見分ける。
01節税の期限カレンダーを持つ年間を通して

個人の節税は、ほとんどが12月31日で締まります。年が明けてからできるのは、すでに支払ったものを申告に反映させることだけです。

時期やること
随時小規模企業共済・iDeCoの加入と掛金の見直し
10〜11月その年の所得の着地を見て、掛金の増額や設備投資を判断する
12月31日その年の経費・控除の締切(ふるさと納税もこの日まで)
2月16日〜3月15日確定申告。期限内に出さないと65万円控除は使えません
3月15日その年から適用する青色申告承認申請・専従者給与の届出期限

とくに見落としやすいのが、3月15日が「前年の申告期限」であると同時に「今年から適用したい届出の期限」でもあることです。申告書を出すときに、今年の届出も一緒に考えてください。

02やらないほうがいい節税を見分ける判断のたびに

節税の相談でいちばん多い失敗は、税金を減らすために、それ以上の現金を使ってしまうことです。税率が20%なら、100万円使って減る税金は20万円ほど。差額の80万円は出ていったままです。

避けたい判断なぜ問題か
必要のないものを年末に買う税金の減少額より支出のほうが大きい
払える額を超えて共済に加入する途中解約で元本割れし、節税額を失う
所得を圧縮しすぎる融資や住宅ローンの審査で不利になる
根拠のない按分割合を使う否認されれば、加算税を含めて余分に払うことになる

判断軸はひとつです。「その支出は、節税がなくてもやる価値があるか」。答えがノーなら、税金を払って現金を残すほうが合理的です。

03納税資金を取り分けておく毎月

所得税・住民税・国民健康保険料・消費税・個人事業税は、時期をずらして次々に請求が来ます。とくに2年目以降は、前年分の住民税と国保が重なって資金繰りが苦しくなりがちです。
対策は単純で、売上が入金されたら一定割合を別口座に移すこと。利益の3割程度を目安に分けておくと、納税期に慌てずに済みます。

04法人化を検討する時期を知る所得が増えてきたら

所得が大きくなると、所得税の累進税率(最高45%)より法人税率のほうが低くなる場面が出てきます。ただし「所得いくらから法人が有利」という公的な基準はありません。社会保険の負担、設立と維持のコスト、事務の手間まで含めて判断する必要があります。
目安として語られることが多いのは所得1,000万円前後ですが、これはあくまで一般論です。消費税の免税期間や役員報酬の設計まで含めると結論は変わるため、具体的な数字で試算してから決めてください。

→ 個人事業主と法人設立、どっちで始める?を読む
→ 法人の節税ガイドを見る

まずは「お金を使わない節税」を全部とる

節税というと共済や保険から考えがちですが、順番が逆です。青色申告の体制づくりは、支出ゼロで毎年65万円(令和9年分からは最大75万円)の控除を生みます。これ以上に確実な節税策はありません。

そのうえで、余裕資金の範囲で所得控除を積み、受け取り方まで設計する。いま書面で申告している方は、令和9年分の改正に間に合うよう、e-Taxの体制づくりから始めてください。

参考情報(一次情報)
  • 国税庁「令和9年分から青色申告特別控除はどう変わる?」 リーフレット(PDF)
  • 国税庁 タックスアンサー No.2072「青色申告特別控除」 nta.go.jp
  • 国税庁 タックスアンサー No.2075「青色事業専従者給与と事業専従者控除」 nta.go.jp
  • 国税庁 タックスアンサー No.2210「必要経費の知識」(家事関連費) nta.go.jp
  • 国税庁「インボイス制度に関する令和8年度税制改正について」 特設ページ
  • 国税庁「源泉所得税の改正のあらまし(令和8年4月)」(生命保険料控除・退職所得控除) PDF
  • 中小機構「小規模企業共済」 kyosai-web.smrj.go.jp
  • 厚生労働省「iDeCoの概要」「2025年の制度改正」 mhlw.go.jp
  • 日本年金機構「付加保険料の納付」 nenkin.go.jp
  • 総務省「ふるさと納税の指定基準の見直し等」 soumu.go.jp