法人の節税ガイド|法人・一人会社の節税策を体系的に整理
法人の節税が個人と決定的に違うのは、打ち手に「締切」があることです。役員報酬は期首から3か月を過ぎると動かせず、決算賞与は決算日までに通知していなければ使えません。決算月に慌てて考え始めると、選べる手はほとんど残っていません。だからこのガイドは、節税策の分類ではなく、いつ手を打つかで章を分けています。ご注意(2026年9月時点):金額・要件・適用期限は2026年9月時点で一次情報にあたって確認した内容です。租税特別措置には期限があり、毎年の改正で変わります。実行前に最新の情報と、自社にあてはまるかを必ずご確認ください。個別の判断は状況によって結論が変わります。
ステップ1 期首に決める
役員報酬を損金にするには、原則として毎月同額(定期同額給与)である必要があります。金額を改定できるのは、事業年度開始の日から3か月を経過する日まで。これを過ぎた改定は、増額部分などが損金になりません。
例外は、役職の変更などの臨時改定事由と、経営が著しく悪化した場合の減額のみです。期首の3か月は、1年間の税額を決める最重要期間だと考えてください。
役員に賞与を出して損金にしたい場合は、事前確定届出給与の届出が必要です。期限は、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日。新設法人は設立から2か月以内です。
届け出た金額・支給日のとおりに支払わなければ、全額が損金になりません。使うなら、支給日の資金繰りまで見てから決めてください。
会社が借りた住宅を役員に貸すと、家賃の一部を会社の経費にできます。役員から賃貸料相当額を受け取っていれば給与課税されません。小規模な住宅(法定耐用年数30年以下なら床面積132㎡以下、30年超なら99㎡以下)の場合、賃貸料相当額は固定資産税の課税標準額をもとに計算します。
ポイントは会社名義で契約することです。役員個人が契約した部屋の家賃を会社が払うと、単なる給与になります。また、無償で貸すと賃貸料相当額が給与として課税されます。
出張の日当は、会社の経費になり、受け取った役員・従業員側では非課税になります。ただし「規程さえあれば非課税」ではありません。非課税となるのは、旅行の目的・期間・職務内容などからその旅行に通常必要と認められる範囲内の金額です。
判断の目安として示されているのは、①役員と従業員の全体でバランスのとれた基準になっているか、②同業種・同規模の他社と比べて相当か、の2点です。金額の根拠を説明できないまま高額に設定すると、給与として課税されます。
決算月は定款変更で変えられます。売上の繁忙期と決算月が重なっていると、着地が読めないまま決算を迎えることになり、打てる手が減ります。
繁忙期の直後を決算月にすると、利益の見通しが立った状態で最後の3か月を使えます。納税の時期と資金繰りの山が重ならないかも、あわせて確認してください。
ステップ2 期中に積み上げる
中小企業者等の少額減価償却資産の特例は、令和8年4月1日以後に取得する資産から、取得価額の基準が40万円未満に引き上げられています(年間合計300万円まで、適用期限は令和11年3月31日まで)。あわせて対象法人の要件も常時使用する従業員500人以下から400人以下に変わりました。
国税庁のタックスアンサーは基準日が改正前のまま旧内容を掲載しているページがあり、ネット上の解説記事もほとんどが「30万円未満」のままです。パソコンや什器の購入判断に直結するので、最新の基準でご確認ください。
法人には、個人の「家事按分」にあたる規定がありません。だから法人の経費は、割合で分けるのではなく、契約・規程・精算で白黒をつける形になります。
自宅の一部を事務所に使うなら会社と賃貸借契約を結ぶ、携帯電話は会社名義にする、というように形を先に整えておくこと。期末にまとめて整理しようとすると、根拠のない按分になってしまいます。
中小法人(期末資本金1億円以下など)は、交際費等について年800万円まで全額を損金にする方法と、接待飲食費の50%を損金にする方法の、有利なほうを選べます。多くの中小企業では800万円の枠で足ります。
見落とされやすいのが、1人あたり10,000円以下の飲食費は交際費から除けるという扱いです(令和6年4月1日以後に支出する飲食費から、5,000円以下から引き上げられました)。参加人数と目的を記録しておけば、枠を使わずに済みます。
中小企業者等は、取得価額40万円未満の資産を、年間合計300万円まで全額その期の損金にできます(令和8年4月1日以後の取得。適用期限は令和11年3月31日まで)。
10万円未満は全額損金、20万円未満なら3年均等の一括償却という選択肢もあります。金額の分かれ目を知っているかどうかで、同じ買い物でもその期の利益が変わります。年間300万円の枠には限りがあるため、期末に駆け込むより計画的に使ってください。
まとまった設備投資をするなら、中小企業経営強化税制(即時償却または税額控除7%、資本金3,000万円以下は10%)や中小企業投資促進税制(特別償却30%または税額控除7%)が使える可能性があります。いずれも適用期限は令和9年3月31日です。
経営強化税制は事前に経営力向上計画の認定を受ける必要があり、取得後では間に合いません。設備を発注する前に、使える制度があるかを確認してください。
中小企業向けの賃上げ促進税制は、雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増えれば15%、2.5%以上で30%の税額控除が受けられます(控除しきれない分は5年繰越)。令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、教育訓練費の上乗せは廃止されました。
注意点として、この制度の適用期限は令和9年3月31日までに開始する事業年度で、その後は廃止される方針が示されています。使えるうちに確認しておきたい制度です。
ステップ3 共済・保険で備える
取引先の倒産に備える制度で、掛金は月5,000円〜20万円(年間最大240万円、累計800万円まで)、全額が損金になります。1年以内の前納分もその期の損金にできるため、決算前の調整にも使われます。
令和6年10月1日以後に解約した場合、その解約から2年を経過する日までに支出する掛金は損金になりません。「解約して利益を出し、すぐ再加入して損金にする」という使い方は封じられました。解約時に収益となる点も含め、出口まで考えてから入ってください。
会社の経費ではありませんが、役員個人の所得控除として効きます。掛金は月1,000円〜7万円で全額が控除対象。役員退職金の原資づくりと、個人の節税を同時に進められます。
ただし加入には従業員数などの要件があり、常時使用する従業員が一定数を超える会社の役員は加入できません(業種により20人以下または5人以下)。また20年未満の任意解約では元本割れします。
かつてのような「全額損金で貯まる保険」は、2019年の通達改正でほぼなくなりました。現在は最高解約返戻率に応じて資産計上する割合が決まる仕組みです(50%超70%以下なら4割を資産計上、70%超85%以下なら6割、85%超はさらに厳しい扱い)。
例外として、最高解約返戻率70%以下かつ年換算保険料が1人あたり30万円以下のものなどは、支払時の損金にできます。「節税になります」という提案を受けたら、返戻率と損金算入割合を必ず確認してください。保障が必要かどうかが本来の判断軸です。
役員退職金は、法人では損金になり、受け取る個人側では退職所得として税負担が軽くなります。法人・個人を通じて最も効果の大きい打ち手のひとつです。損金になる時期は、原則として株主総会などで金額が具体的に確定した日の属する事業年度です。
金額は不相当に高額な部分が損金になりません。実務では「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」で計算されることが多いものの、倍率の相場を国が示しているわけではありません。在任中の報酬水準がそのまま退職金の上限に効いてくるため、役員報酬の設計と一体で、数年かけて考えるテーマです。
ステップ4 決算前後にやる
決算対策は、利益の見込みが分かってはじめて成立します。決算日を過ぎてからできることは、ほとんどありません。
月次決算ができていれば、決算3か月前には着地がおおよそ読めます。この時点で税額の概算を出し、打ち手を選ぶ時間をつくることが、決算対策の実体です。
従業員に決算賞与を出す場合、未払計上でその期の損金にするには3つの要件をすべて満たす必要があります。①支給額を各人別に、同時期に支給する全員へ通知する ②通知した日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払う ③通知した日の属する事業年度で損金経理する。
よくある失敗は、通知の記録が残っていないことです。通知書に各人の受領印や署名をもらっておくと、後から説明できます。なお役員へは使えません。
決算日までに債務が確定していれば、支払いが翌期でもその期の損金になります。社会保険料の会社負担分、未払給与、確定した外注費などを拾い忘れていないか確認してください。
また、家賃や保険料のように継続して支払うもので、支払った日から1年以内にサービスの提供を受けるものは、支払時に損金にできる場合があります(短期前払費用)。ただし毎期継続して同じ処理をすることが前提で、その年だけ使うことはできません。
令和8年4月1日以後に開始する事業年度から、法人税とは別に防衛特別法人税が課されます。税率は課税標準法人税額の4%で、年500万円の基礎控除があるため、法人税額が500万円以下であれば税額は生じません。
注意すべきは、税額がゼロでも申告が必要だという点です。多くの中小企業は納税額ゼロですが、申告書の提出義務はあります。決算後2か月以内の提出を忘れないでください。
利益を消せば税金は減りますが、決算書が痩せると借りられなくなります。法人税の実効税率を仮に30%とすれば、100万円の利益を消して減る税金は30万円、手元から出ていくのは100万円です。差額の70万円は戻りません。
金融機関は利益・自己資本・返済力を見ています。近く融資を受ける予定があるなら、その期は無理な節税より「見せられる利益」を優先する——この判断を、申告前に一度してください。
- 期首から3か月を過ぎてから役員報酬を上げ、増額分が損金にならない
- 事前確定届出給与を届出と1円違いで支給し、全額が損金不算入になる
- 決算月に慌てて経費を使い、税金の減少額より現金の流出が大きくなる
- 経営セーフティ共済を解約した直後に再加入し、2年間掛金が損金にならない
- 節税を優先して決算書を痩せさせ、次の融資が通らなくなる
法人の節税は「いつ決めるか」で決まる
法人の打ち手には締切があります。役員報酬は期首3か月、決算賞与は決算日、設備投資減税は発注前。決算月に相談に来られても、残っている選択肢はごくわずかです。
まずはステップ1の役員報酬を、期首に時間をとって決めること。そして決算3か月前に着地を見る習慣をつくること。この2つができていれば、毎年きちんと選択肢のある状態で決算を迎えられます。
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与」 nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.5208「役員の退職金の損金算入時期」 nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.5265「交際費等の範囲と損金不算入額の計算」 nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.5350「使用人賞与の損金算入時期」 nta.go.jp
- 国税庁 タックスアンサー No.2600「役員に社宅などを貸したとき」 nta.go.jp
- 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」(少額減価償却資産・賃上げ促進税制) PDF
- 国税庁「防衛特別法人税に関する納付手続等について」 nta.go.jp
- 国税庁 法人税基本通達 第3節「保険料等」 nta.go.jp
- 中小機構「経営セーフティ共済」「税制の特例に関する内容の変更について」 smrj.go.jp