法人の経費に「家事按分」はない|自宅・車・携帯の正しい通し方とfreee運用

会社の口座から、社長の携帯代と自宅家賃の一部が毎月引き落とされている。個人事業主だったころのやり方をそのまま持ってきただけで、悪気はまったくない。「事業で使っているのは6割くらいだから、6割を経費に」——ずっとそう処理してきた。

ただ、法人になった時点で、この処理は「何割が事業分か」では説明がつかなくなっています。理由はひとつで、個人事業主の「家事関連費」にあたる規定が、法人税法には置かれていないからです(記載は2026年8月時点の法令に基づきます)。

結論:法人の経費は「何割か」ではなく「取り決めがあるか」で決まる

個人事業主には家事関連費という考え方があります。家庭用と事業用が混ざった支出のうち、業務の遂行上直接必要だったことが明らかに区分できる部分に限り必要経費にできる、という取扱いです(国税庁タックスアンサーNo.2210)。割合で線を引く発想が、制度そのものに組み込まれています。

法人に、これに対応する規定はありません。会社と社長は別人格で、財布も別。会社の損金になるのは会社の事業のための支出であって、社長個人の生活費が混ざった支出を「6割は会社の分」と割ってよい、という条文が存在しないのです。

誤解のないように付け加えると、按分の計算そのものが禁じられているわけではありません。会社が社長から自宅の一部を借りるときに賃料を面積で決めるのも、個人の車を業務に使って走行距離で実費を精算するのも、合理的な計算です。ないのは「割合を決めれば、その分だけ会社の経費にできる」という制度のほう。法人では、その割合は契約や規程で決めた対価の中身として使います。

では法人はどこで線を引くのか。使う道具は3つだけです。契約・規程・精算。結論はグラデーション(○割)ではなく、白か黒かで出します。

個人事業主(財布は1つ)
家事関連費を割合で按分
「事業分◯割」の合理的な根拠を残す
法人(財布は2つ)
契約・規程・精算で白黒をつける
割合は「決めた対価の中身」として使う

この記事を通した整理はひとつです。会社が負担してよいのは、会社のためだったと書類から読み取れる支出だけ。だから支出のたびに割合を証明するのではなく、お金が動く前に「誰と誰の間で、いくらで、何をやりとりするか」を決めて書面に残す。税務調査で問われるのも、結局はその書面です。

なお、あなたが個人事業主なら話は別です。割合の決め方と根拠の残し方は在宅ワーク・自宅兼事務所の経費按分ガイドにまとめています。

なぜ線引きが厳しいのか——否認は会社と社長に二度効く

個人事業主が経費を否認されると、その分だけ所得が増えて所得税・住民税が追いかけてきます。痛いですが、話は一方通行です。

法人は違います。社長個人の支出を会社が払っていたと判断されると、まず会社側で損金にならず、その支出は社長への給与(賞与)として扱われる可能性があります。役員に対する給与のうち損金にできるのは、原則として定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与の3つに限られており(法人税法34条)、期中に突然出てきた賞与はここに当てはまりません。会社側の損金は増えないまま、個人側では給与所得として所得税・住民税がかかり、支払時に天引きしていなかった源泉所得税の不納付という問題も残ります。

⚠ 同じ1つの支出が、二方向に効く 会社側は損金不算入、社長側は給与所得として課税、さらに源泉徴収漏れ。実際の取扱いは個別の事実関係によりますが、「会社のためだったと書類から読み取れるか」で分かれる構造は共通です。

役員報酬の金額そのものをどう決めるかは役員報酬の決め方と最適化で扱っています。ここで押さえたいのは、経費の線引きを曖昧にすると、その曖昧さが役員報酬の世界にまで飛び火するという点です。

按分したくなる3つの支出は、こう通す

実務でご相談が集中するのは、自宅・車・携帯の3つです。いずれも「何割が事業分か」と考えたくなりますが、法人では通し方そのものを変えます。

自宅には2つのルートがあります。ひとつは会社が社長から自宅の一部を借りる方法(賃貸借契約を結び、会社が社長に賃料を払う。社長側では不動産所得となり、原則として確定申告が必要です。他の所得の状況によって取扱いが変わることもあります)。もうひとつが役員社宅で、会社が大家と契約して物件を借り、社長に貸す形です。社長から賃貸料相当額を受け取っていれば、給与課税されません。

小規模な住宅(法定耐用年数30年以下なら床面積132平方メートル以下、30年超なら99平方メートル以下)の賃貸料相当額は、建物の固定資産税課税標準額×0.2%、12円×総床面積÷3.3平方メートル、敷地の固定資産税課税標準額×0.22%の合計で計算します。無償で貸せば相当額の全額が、低い家賃なら差額が給与として課税されます(国税庁タックスアンサーNo.2600)。

ただし、これは「小規模な住宅」に当たる場合の計算です。床面積がこの線を超えると算式が変わり、会社が借り上げている物件なら「会社が家主に支払う家賃の50%」と上記の算式で計算した額のいずれか多い金額が賃貸料相当額になります。さらに床面積240平方メートル超などの豪華社宅は、通常支払うべき使用料で判定される別扱いです。自宅の広さが132平方メートル(耐用年数30年超なら99平方メートル)に近いなら、契約を動かす前に計算方法を確かめてください。

は、会社名義で買う・リースする(社用車)か、社長個人の車を使って走行実費を精算するかの二択です。後者を選ぶなら、社内規程と走行記録が前提になります。携帯は最も簡単で、法人名義で契約し直すのが最短です。

支出よくあるNG正しい通し方残す紙
自宅家賃家賃の6割を会社が負担会社が社長から一部を借りる/役員社宅にする賃貸借契約書、賃貸料相当額の計算根拠
個人の車のローン・保険料を会社払い社用車にする/個人所有のまま走行実費を精算車両の名義書類、車両管理規程、走行記録
携帯個人契約の請求額の一部を会社払い法人契約に切り替える法人名義の契約書・請求書

すべてに共通するのは、「何割か」を証明する書類ではなく、「誰と誰の間で、いくらで、何を貸し借りするか」を決めた書類を用意している点です。支出のたびに割合を証明するのではなく、取り決めを先に一度つくっておく——これが法人のやり方です。

ただし、社宅は誰にでも勧められる方法ではありません。効果が大きいぶん、大家の承諾を取って契約名義を個人から法人へ巻き直す手間がかかり、更新料・保証会社の再審査が発生することもあります。次のいずれかに当てはまるなら、手間に見合いません。

  • 家賃がもともと低い
  • 1〜2年で引っ越す予定がある
  • 賃貸借契約の変更に大家が難色を示している

その場合は「会社は自宅に関与しない」と割り切り、役員報酬の水準で調整するほうが、結果としてすっきりします。中途半端に按分だけ残すのが、いちばん危ない状態です。

飲食代の分かれ道——「誰のため」で決まる

飲食代は科目選びで迷いがちですが、判断軸は「誰のために使ったか」ひとつです。その席に誰がいたかを思い出せば、答えはたいてい決まります。

誰のため科目押さえる点
社外の取引先・仕入先の接待交際費等1人当たり10,000円以下の飲食費は一定の記載事項を残せば交際費等から除ける
社内外を問わず打合せに伴う飲食会議費会議としての実態(相手・議題)が説明でき、飲食の程度が通常の昼食の範囲を超えないこと
全社員を対象とした慰安・食事福利厚生費全員が対象であることが前提。役員だけなら給与扱いのリスク
社長ひとりの食事———会社の経費にならない。社長個人の生活費にあたる

1人当たりの基準額は、令和6年4月1日以後に支出する飲食費から10,000円以下に引き上げられています(それ以前は5,000円以下)。ただしこの除外は社外の人が同席した飲食に限られ、自社の役員・従業員だけの飲み会(社内飲食費)は金額にかかわらず対象外です。しかも金額だけで自動的に外れるわけでもなく、飲食の年月日/相手方の氏名・名称と関係/参加人数/金額と店名・所在地を記載した書類の保存が条件になります。

社長が立て替えた・会社の金で私物を買った

実務でいちばん残高が濁るのが、立替の精算漏れです。

社長が会社の支払いを立て替えた場合、それは会社から見れば社長への借金です。役員借入金(または未払金)として計上し、あとで精算します。金額が小さいからと放置すると、そもそも立替だったのか社長からの資金提供だったのかが後日わからなくなり、決算書に正体不明の残高だけが積み上がります。

逆に、会社のお金で社長の私物を買った場合役員貸付金です。会社が社長にお金を貸したのと同じ扱いになるため、原則として利息を取る必要があります(取らなければ、その利息相当額が社長への経済的利益として給与課税の対象になり得ます)。なお、適正な利息との差額が1年間で5,000円以下であれば、給与として課税されない取扱いもあります。

ここで注意したいのが利率です。会社が借り入れて貸した場合はその借入金の利率、それ以外は貸付けを行った年に応じた利率によるとされています。つまり利率は「貸した年」で決まるため、古い年の率をそのまま当てはめると計算が合いません。国税庁タックスアンサーNo.2606では令和4年から令和7年中の貸付けが年0.9%とされていますが(同ページは令和7年4月1日現在法令等)、今期の貸付けに使う利率は、その年の分を国税庁の最新の公表内容で確認してください

役員貸付金は、金融機関から見ても心証がよくありません。「会社の資金が社長個人に流れている」と読まれるため、融資を受ける予定があるなら真っ先に整理すべき残高です。

freeeでの運用に落とす

考え方が決まったら、あとは日々の入力で崩れない仕組みにします。ポイントは3つです。

  1. 法人口座・法人カードに寄せる。会社の支出は会社の財布から出す。これだけで「誰のための支出か」の8割が自動的に整理されます。
  2. 社長の個人カードは口座連携の対象から外す。連携すれば私的な支出まで明細として流れ込み、毎月それを仕分ける作業が発生します。立替が月に数件なら、経費精算として都度登録し、役員借入金で処理するほうが帳簿はきれいです。
  3. 「自動で経理」や取引登録の画面で、備考(摘要)に一言だけ残す。「相手先」と「目的」の2語で足ります。交際費・会議費・旅費交通費など、あとから見て誰のためか判断できない支出ほど効きます。

まとめ:今日からできる3つ

法人の経費に「何割」という発想はありません。会社と社長は別人格で、財布も別です。共用にするなら契約を、使い方を決めるなら規程を、立て替えたなら精算を——白黒をつける道具はこの3つだけです。曖昧なまま置いた按分は、否認されたときに会社と社長の両方に効きます。

まず、自社の現在地を確認してみてください。

法人の経費・線引きチェック
  • 会社が負担している自宅家賃について、賃貸借契約か社宅の取り決めがある
  • 社長の携帯電話は法人名義で契約している
  • 個人所有の車を業務で使うなら、規程と走行記録がある
  • 会社のカードで私物を買っていない(買ったなら役員貸付金にしている)
  • 社長の立替が役員借入金・未払金として残高で追える
  • 交際費の摘要に、相手先と目的が入っている

チェックが付かない項目があっても、今期中に整えれば十分間に合います。今日からできることを3つ挙げます。

  1. 直近3か月の法人口座の引落しを眺め、社長個人の名前で契約しているものを書き出す。携帯、自宅家賃、車の保険、サブスクリプション。ここに並んだものが、契約の巻き直しか精算かを決めるべき対象です。
  2. 携帯電話を法人契約に切り替える。3つのうち最も手間が軽く、按分の議論をいちばん確実に消せます。
  3. 役員貸付金・役員借入金の残高を確認する。freeeの総勘定元帳で科目を絞るだけです。正体のわからない残高が残っているなら、内訳を今のうちに書き出しておいてください。

参考情報