非上場株の相続税評価が2028年1月新ルールへ|自社株対策は2027年末がタイムリミット
国税庁が60年ぶりに非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価ルールを見直す方針。2028年1月適用を目指す段階で、自社株評価額が上がる可能性も。中小企業オーナーが2027年末までにやるべきことを公認会計士が整理します。
「自社株対策は、まだ先で大丈夫」——そう考えていたオーナー経営者の方に、急ぎお伝えしたいニュースがあります。国税庁が、非上場株式の相続税評価ルールを1964年以来およそ60年ぶりに抜本見直しする議論を始めました。2028年1月の適用開始を目指す方針で、残された猶予は実質的に約1年半とみられます。
ニュースの要点(3行)
- 何が:国税庁が「財産評価基本通達」を改正し、非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価方法を抜本的に見直す方向で議論を開始
- いつ:2028年(令和10年)1月1日以後の相続・遺贈・贈与から適用を目指す方針(2026年4月時点/2027年度税制改正大綱への反映を経て確定見込み)
- 誰に影響:自社株を保有する中小企業オーナー、事業承継を検討中の経営者、株式保有特定会社・土地保有特定会社のスキームを活用している方
2026年4月、国税庁は「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の初会合を開催しました。会計検査院が2024年11月に指摘した「評価の不公平」を是正するため、本格的な議論が始まっています。
なぜ今、見直しなのか
現行の評価ルールは1964年(昭和39年)に作られたものがベースです。当時の経済環境(高金利・高成長)を前提とした「配当還元率10%」などの数値が、今のゼロ金利時代に合わなくなっている——これが見直しの根本的な動機です。
例えるなら、60年前に設計された道路標識が、現代の高速道路にそのまま立っているような状態。標識(評価ルール)が現実の交通量(経済実態)に追いつかず、本来同じ価値であるはずの株式が、規模区分や会社の作りこみ方によって大きく違う評価額になってしまっている、というのが会計検査院の指摘でした。
何が変わるのか(現行ルールとの比較)
まだ最終案は確定していませんが、現時点で議論されている主な論点は次の通りです。
| 項目 | 現行ルール | 見直しの方向性(議論中) |
|---|---|---|
| 類似業種比準方式 | 配当・利益・純資産の3要素を比準 | 比準要素のウェイト変更を検討 |
| 会社規模区分 | 大・中・小で評価方式が変わる「崖」あり | 規模区分の見直し・段差の緩和 |
| 配当還元率 | 10%固定 | 現在の金利水準に合わせて引き下げの方向 |
| 株式保有特定会社 | 総資産に占める株式割合で判定 | 判定基準・評価方法の見直しが論点に |
| 土地保有特定会社 | 総資産に占める土地割合で判定 | 同上 |
| 制度の位置づけ | 国税庁の通達(行政ルール) | 法令への格上げも検討 |
※ 株式保有特定会社・土地保有特定会社とは、資産構成が株式・土地に偏った会社(おおむね総資産の一定割合以上を株式または土地が占める会社。判定基準は会社規模により異なる)で、通常より厳しい純資産価額方式での評価を強制される区分です。
特にオーナー経営者にインパクトが大きいのは、「配当還元率の引き下げ」と「特定会社スキームの見直し」の2点です。
配当還元率は現行10%固定ですが、あくまで試算として、仮に半分の5%に下がれば、同じ配当額でも評価額は単純計算で2倍に膨らみます(具体的な引き下げ幅は議論中で未確定)。少数株主に配当還元方式で株式を移転している場合、評価額が上振れする可能性があります。
また、いわゆる「株特外し」「土特外し」と呼ばれる組織再編による評価圧縮スキームについても、判定基準の見直しが入る可能性があり、これまでの対策が無効化されるケースも想定されます。
中小企業オーナーへの影響
ここで重要なのは、今回の見直しは「増税のための改正」ではなく「不公平の是正」として位置づけられていることです。とはいえ、結果として「これまで評価額を圧縮できていた会社」は評価額が上がる方向に動くと考えられます。
具体的に影響を受けやすいのは次のような会社です。
- 純資産は厚いが、利益・配当を抑えている会社(類似業種比準方式の恩恵が大きい)
- 株式保有特定会社・土地保有特定会社の判定基準ギリギリで運営している会社
- 持株会社(ホールディングス)を介した事業承継スキームを組んでいる会社
- 役員・親族への配当還元方式での株式移転を計画している会社
逆に言えば、2028年1月の適用開始までに動けば、現行ルールでの評価が間に合う可能性があるということでもあります。
今やるべきこと(2027年末までの時系列)
残された時間は約1年半。次の順序で動くことをおすすめします。
・現時点の自社株評価額を試算する(顧問税理士に依頼)
・株主構成・持株比率の現状把握
・後継者・相続人の意思確認
・有識者会議の議論を継続ウォッチ(2026年中に論点取りまとめ予定)
・現行ルール下での対策メニューを検討(生前贈与、種類株式、持株会社化、事業承継税制の活用など)
・対策実行に必要な定款変更・株主総会決議の準備
・2027年度税制改正大綱(2026年12月公表予定)で改正内容を確認
・現行ルールでの最終的な贈与・株式移転を実行
・事業承継税制の特例措置(贈与・相続の発生が2027年12月31日まで)の活用にも注意
なお、事業承継税制の「特例措置」は、贈与・相続の発生日が2027年12月31日までであることが適用要件です(特例承継計画の提出期限は別途定められているため、顧問税理士に確認を)。非上場株評価見直しと、事業承継税制特例措置の期限が、ほぼ同時にやってくるのが2027年末です。この二重のタイムリミットを踏まえると、2026年中の早めの動き出しが現実的です。
注意点
ここでお伝えした内容は、2026年5月時点で公表されている情報をもとにした「議論中の方向性」です。最終的な改正内容は、2026年中の有識者会議とりまとめ、2026年12月の税制改正大綱、2027年度の通達改正を経て確定します。報道や有識者会議資料の今後の動きを継続的にウォッチする必要があります。
また、「現行ルールのうちに駆け込みで対策を」と急ぐあまり、財産評価基本通達6項(総則6項)——著しく不適当と認められる評価を国税庁長官が再評価できる規定——のリスクを抱える形式的な対策は逆効果になりかねません。経済合理性のある対策設計が前提です。
当事務所からひとこと
事業承継・自社株対策は、「思い立ってから動く」では遅すぎるテーマです。今回の評価見直しの議論は、まさにそれを突きつけるニュースだと感じています。当事務所では、自社株評価の試算から事業承継スキームの設計まで対応しています。「うちはどう影響するのか」を知りたい方は、お早めにご相談ください。
参考情報
- 国税庁 No.4638 取引相場のない株式の評価
- 国税庁 審議会・研究会等(「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の議事・資料は国税庁サイトで順次公表)
- 日本経済新聞「非上場株の相続評価、2028年1月から新ルール適用へ 有識者が初会合」(2026年4月)
- 日本経済新聞「非上場株の相続評価見直し、国税庁が過度な節税抑止 一部は増税に」
- 会計検査院「令和5年度決算検査報告」(2024年11月)— 取引相場のない株式の評価に関する指摘