電子帳簿保存法で法人の義務はひとつだけ|freeeファイルボックス実践
取引先からメールで届いた請求書のPDFを印刷してファイルに綴じ、元のPDFは削除している。その一方で、郵送で届いた領収書を「全部スキャンしなければ」と焦っている。この2つ、実は逆のことをしています。
前者は認められない取り扱いです。問題なのは紙に印刷したことではなく、元のデータを消したこと。後者は、やってもやらなくてもよい任意の作業です。原因はひとつで、「電子帳簿保存法=会社の書類を全部電子化する法律」という思い込みです。中身は違います。この記事では、法人が本当にやるべきことと、freeeのファイルボックスでの実践手順を整理します(記載は2026年8月時点の法令・freee会計の仕様に基づきます)。
結論:義務は「電子取引データの保存」ひとつだけ
この法律には、性格の異なる2つの中身が同居しています。
| 中身 | 対象 | 性格 |
|---|---|---|
| 紙で保存義務のある帳簿・書類を「電子で保存してもよい」 | 帳簿、決算書類、紙で受け取った請求書・領収書など | 選べる(任意) |
| 電子でやり取りしたデータは「電子のまま保存しなければならない」 | メール添付のPDF、Webからダウンロードした領収書など | すべての事業者の義務 |
義務は下の1行だけです。上は全部「やってもいい」にすぎません。ここを押さえるだけで、やるべきことの量が一気に減ります。
そして、この記事を通じて使う整理はひとつだけです。書類の保存は、郵便物の仕分けと同じだと考えてください。家に届いた郵便物を玄関で「取っておく箱」と「捨てる箱」に振り分けるように、会社に届いた書類も、届いた瞬間に「紙の箱」と「データの箱」のどちらかへ入れる。この一手で、あとの作業はほぼ自動的に決まります。freeeのファイルボックスは、この「データの箱」の仕分け係にあたる機能です。
その書類、どうやって受け取りましたか
制度の区分から入ると、たいてい途中でわからなくなります。実務で最初に見るべきは、制度名ではなく受け取り方です。郵便物でいえば、差出人ではなく「どの郵便受けに届いたか」で振り分けるということ。同じ取引先からの同じ請求書でも、封筒で届けば紙の箱、メールで届けばデータの箱です。
→ 紙のまま保存でOK
スキャンして原本を捨てるのは任意
→ データのまま保存が義務
印刷して元データを消すのは不可
自社が発行した書類も同じ判定です。印刷して郵送したなら、印刷元の電子ファイルを控えとして保存できます。メールでPDFを送ったなら、それは電子取引にあたります。
保存期間も先に決めておきましょう。根拠となる法律が複数あるため、結論だけ並べます。
| 根拠 | 期間 | 対象・注意点 |
|---|---|---|
| 法人税法(原則) | 7年 | 起算日は決算日ではなく、確定申告書の提出期限の翌日 |
| 法人税法(例外) | 10年 | 青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度 |
| 会社法 | 10年 | 会計帳簿は閉鎖の時から、計算書類は作成した時から(会社法432条2項・435条4項) |
年度ごとに7年と10年が入り乱れると管理が煩雑になるため、実務上の結論は「迷ったら10年で統一」です。創業期の中小法人ほど赤字の年度が混じりやすく、10年で揃えておけば横断的に安全側に立てます。
freeeファイルボックスでやること
ここからが実践です。データの箱の仕分け係を、実際に動かします。
やるべきことは、受け取り方で分かれます。データで届いたものだけが義務のフローで、紙で届いたものは本来やらなくて構いません。順に見ていきます。
データで受け取ったとき(義務のフロー)
データの箱に入るものは、これが唯一の義務です。とはいえ作業は次の4ステップで完了します。メール添付のPDF、Webからダウンロードした領収書、サブスクリプションの月額領収書などが対象です。
このうち手間に見えるのは3の入力ですが、実際はほとんど埋まります。自動入力には①添付先の取引・申請の情報からの自動補完 → ②OCR(画像から文字を読み取る技術)による推測という優先順位があるためです。つまり先に取引を登録してからファイルを添付すると、3項目はほぼ埋まった状態になります。この順番を知っているかどうかで、日々の入力量がまったく変わります。
紙で受け取ったとき(3つの選択肢)
ここが誤解の多いところです。紙の箱に入ったものは、紙の箱のままで構いません。紙で受け取った請求書や領収書は、そのまま綴じておけば保存義務を果たしています。ファイルボックスに入れる必要はありません。そのうえで、選べる道が3つあります。
| 選択肢 | ファイルボックス | 電帳法の要件 |
|---|---|---|
| ① 紙のまま保管する | 使わない | なし(綴じるだけ) |
| ② 入れておくが、原本も残す | 使う | なし(探しやすさのための控え) |
| ③ スキャンして原本を捨てる | 使う | あり(スキャナ保存の要件) |
意外と知られていないのが②です。原本の紙を残しておくなら、ファイルボックスに入れても電帳法の要件は一切かかりません。保存の本体はあくまで紙の原本で、アップロードしたファイルは「探しやすくするための控え」にすぎないからです。この場合、画面に表示される解像度や電子保存項目は気にしなくて構いません(「紙の原本」欄も「あり」のままにします)。過去の請求書をキーワードで探したい、外出先からスマホで確認したい——そうした目的だけで使うのは、まったく問題のない運用です。
要件が発生するのは③、つまり紙の原本を捨てるときだけです。この場合は前記の3項目に加えて、次のことが必要になります。
そして、③で見落とされがちなのが順序です。上の「おおむね7営業日以内」を約70日まで延ばすには、法令上その期間を定めた規程があることが条件とされています(電子帳簿保存法施行規則2条6項1号ロ)。規程を作らないまま50日目にスキャンして原本を捨てる——これがいちばん危ない進み方です。
当事務所では、迷っている会社にはまず②をおすすめしています。紙は今までどおり保管しつつ、freeeには「探せる状態」を作る。②なら規程も要件も気にせず始められます。運用が回るようになり、紙の保管スペースが本当に負担になった段階で、規程を整えて③へ進めば十分です。
やらなくていいことが3つあります
freeeを使う法人にとって、準備物が消える話が3つあります。
- タイムスタンプは不要。freeeはタイムスタンプ付与機能を2022年1月17日で提供終了しており、以降は訂正・削除の履歴が自動で記録されることで要件を満たす設計です。「電帳法にはタイムスタンプが必須」という説明は、freeeでは当てはまりません。
- 事前の設定は不要。ファイルボックスの電子帳簿保存機能は2022年9月27日から一律ONです(有料プランの契約が前提です)。どこかのスイッチを探す必要はありません。
- システム概要書の備付けは不要。電帳法にはシステム概要書等の備付け要件がありますが、これは自社開発のプログラムを使う場合に限られます。freeeのような市販のクラウド会計ソフトなら、利用者が概要書を用意する必要はありません。
では会社が用意するものは何か
ここが本記事でいちばん大事なところです。freeeの機能がONになっていること=電帳法対応の完了、ではありません。
会社側で用意すべきものは社内ルール(事務処理規程)です。内容はシンプルで、①電子保存の責任者は誰か、②どういう手順で保存するか、③いつから、どの書類を対象に始めるか、の3点が骨格になります。freeeがテンプレートを配布しており(フォーム入力後にダウンロードできます)、国税庁も各種規程のサンプルを公開しています。どちらも括弧書きの部分を自社に合わせて直せば足りる作りです。
ひとつ整理しておくと、規程は目的の異なる2種類があります。混同しやすいところです。
| 用途 | 目的 | いつ必要か |
|---|---|---|
| 電子取引データ用 | データの訂正・削除を防ぐ(改ざん防止) | メールやECで受け取るなら必要 |
| スキャナ保存用 | 読み取りの対象・時期・責任者を定める | 紙の原本を捨てるとき(約70日を使うなら必須) |
根拠となる条文も目的も別のものなので、それぞれ用意しておくのが確実です。とはいえ、どちらもテンプレートの穴埋めで足ります。紙の原本を捨てる予定がないなら、当面は上の1種類だけで構いません。
「freeeの設定はゼロ。代わりに社内ルールを用意する」——これが、電帳法対応の実際の作業量です。
つまずきやすい4つのポイント
箱に入れたあとに起きるつまずきを4つ、実際のご相談で繰り返し出てくるものに絞ります。先に一覧で示します。
| よくある誤解 | 実際は | 対処 |
|---|---|---|
| スキャンすればいつでも紙を捨てられる | 重要書類はおおむね7営業日以内。規程があれば約70日まで | 規程を用意し、月次で期限が近い紙を確認する |
| ECサイトの領収書もアップすれば終わり | ダウンロード時点で訂正・削除が可能になるため社内ルールが必要 | 規程に「訂正・削除を原則禁止」と書く |
| 銀行明細はどう取り込んでも同じ | 口座同期はOK・CSV取込は対象外(規程があれば可) | CSV取込に切り替えた口座がないか点検 |
| ダウンロードして手元に持てば安心 | ファイル単体では履歴・検索の要件を満たさない | 解約時もアカウントと事業所は消さない |
以下、それぞれの背景です。
1. スキャンして紙を捨てるなら、入力期限を過ぎると紙保存に逆戻り 紙で受け取った重要書類をスキャンして原本を捨てるなら、期限内に電子保存する必要があります。過ぎた分は紙で保存しなければなりません。期限はおおむね7営業日以内が原則で、前述の規程を定めている場合に限り約70日まで延ばせます。なお「約70日」は国税庁の用語ではなく、法令の「業務の処理に係る通常の期間(最長2か月)+おおむね7営業日以内」を足した実務上の通称で、freeeの画面表記に合わせたものです。この2か月は暦のうえでの2か月で、4月21日に受け取ったなら6月20日が起点になります。また見積書・発注書などの一般書類には期限の制限がないため、ここを混同して「全部いつでもいい」と思い込むのが典型的な失敗です。
2. ECサイトのダウンロード領収書・メール受領には社内ルールが要る ECサイトの領収書は、いったん自社のパソコンにダウンロードしてからアップロードする流れになります。その時点でファイルは訂正・削除が可能な状態に置かれるため、社内ルールに「訂正・削除を原則禁止する」旨を書いておく必要があります。メールで受け取った請求書も同じです。結局、事務処理規程は経路を問わず備えておくのが安全です。
3. CSVアップロードの明細は対象外 銀行やカードの明細は、システム間で直接同期したものはそのまま要件を満たします。口座を同期しているだけで済んでいるのは意外と知られていない利点です。一方、CSV取込や手入力で作った明細は訂正・削除ができるため、規程がなければ対象になりません。金融機関の都合でCSV取込に切り替えた口座がないか、一度確認してみてください。
4. freee解約時にアカウント・事業所を削除するとデータが失われる 有料プランをやめても、アカウントと事業所を削除しない限りファイルが勝手に消えることはありません。危ないのは「ダウンロードして手元に持っておけば大丈夫」という発想のほうで、ダウンロードしたファイル単体では履歴や検索の要件を満たしません。紙原本を廃棄しているなら、要件を満たす保存物がどこにも存在しない状態になります。つまり保存期間(原則7年・最長10年)は、そのままソフトを使い続ける期間になるということです。会計ソフトの乗り換えを検討するときは、この点を必ず判断材料に入れてください。
なお、要件を満たしていない箇所があるからといって、それだけで青色申告の承認が取り消されるわけではありません。国税庁も、保存要件の違反があったことをもって直ちに取消しが行われるものではないとしています。恐れて何もしないより、今の状態を把握して1つずつ塞いでいくほうがはるかに建設的です。
まとめ:今日からできること
書類の保存は、届いた瞬間に紙の箱かデータの箱かを決める、その一手でほぼ決まります。データの箱に入るものだけが義務で、そこはfreeeのファイルボックスが仕分け係を務めてくれる。紙の箱はそのままでよく、捨てたくなったときだけスキャナ保存を検討すればいい。やることを増やすのではなく、やらなくてよいことを確定させる——これが電帳法との現実的な付き合い方です。
まず、自社がいまどの段階にいるかを確認してみてください。
- メールやWebで受け取った請求書・領収書を、データのまま保存している
- 保存したファイルに、発行元・発行日・金額の3項目が入っている
- 電子で届く書類の経路(メール・EC・サブスク)を把握できている
- 事務処理規程(社内ルール)を作って備え付けている
- 紙の原本を捨てているなら、スキャナ保存用の規程も用意できている
- 紙原本を捨てた書類について、freeeの契約を続ける前提になっている
チェックが付かない項目があっても、慌てる必要はありません。多くの会社でいちばん抜けているのは4つ目です。今日から次の3つを試してみてください。
- 電子で届く書類の経路を書き出す。メール添付、ECサイト、サブスクリプションの管理画面、取引先のシステム。担当者個人のメールボックスに届いているものと、クラウドサービスの月額領収書が最も抜けやすい箇所です。
- メール転送アドレスを社内に配る。[取引入力]→[ファイルボックス]→ 右上の[ファイル設定]→[メールでfreeeにファイルを送る]で取得できます。「請求書が届いたら転送する」だけを習慣化すれば、経理担当者以外にも広げられます。
- 事務処理規程を1枚だけ作る。freeeまたは国税庁のテンプレートを埋めるだけです。機能がONでも、これがなければ対応は完了しません。
freeeの契約から初期設定・口座連携までの全体像はfreee導入ガイドにまとめています。また、法人ではなく個人事業主・ひとり社長で、freeeを使わずに最小限で対応したい方は電子帳簿保存法の最小対応(専用フォルダ+ファイル名+事務処理規程)をご覧ください。
参考情報
- 国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/index.htm
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(令和8年7月)」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0026007-006_05.pdf
- 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【スキャナ保存関係】(令和8年7月)」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0026007-006_03.pdf
- 国税庁「タックスアンサー No.5930 帳簿書類等の保存期間」 https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm
- 国税庁「参考資料(各種規程等のサンプル)」 https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/0021006-031.htm
- e-Gov法令検索「会社法」(432条・435条) https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- freee「電子帳簿保存法の概要・手続について」 https://support.freee.co.jp/hc/ja/articles/4410254921497
- freee「取引先とやり取りした各種帳票類をファイルボックスで管理する(電子帳簿保存法)」 https://support.freee.co.jp/hc/ja/articles/4413886154649
- freee「電子帳簿保存法対応 社内規程テンプレート」 https://go.freee.co.jp/electronic-book_regulation.html