はじめての給与計算|額面から手取りまでの流れと源泉徴収・年末調整の基本

給与を「月30万円」と決めたのに、実際に振り込む金額は30万円ではありません。社会保険料と税金を差し引いた手取りを払い、差し引いた分は会社が預かって本人の代わりに納めます。この仕組みさえ掴めれば、給与計算は一気にシンプルになります。

ポイントは、会社は税務署や年金事務所の「集金代行」をしていると考えることです。給与から預かったお金は会社の売上でも経費でもなく、あくまで一時的な預かり金。期日までに本来の宛先へ届けるだけ——この「預かって、届ける」という一本の線で、源泉徴収も社会保険料も年末調整もすべて説明がつきます。

給与計算の全体像:額面 − 控除5種 = 手取り

給与計算とは、突き詰めると額面から5つを差し引いて手取りを出す作業です。

差し引くもの中身届け先
健康保険料標準報酬月額 × 保険料率(労使折半)年金事務所(健保組合)
厚生年金保険料標準報酬月額 × 18.3%(労使折半)年金事務所
雇用保険料賃金総額 × 保険料率(労使で負担)労働局(年1回の年度更新でまとめて)
源泉所得税源泉徴収税額表で決まる(会社が計算)税務署
住民税市区町村から通知された額(会社は計算不要)市区町村
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額面 30万円 → 社会保険料(健康保険・厚生年金)で約4.4万円、雇用保険料と源泉所得税を差し引くと、手取りはおおむね24万円前後。差し引いた約6万円は会社が預かり、それぞれの宛先へ納めます。
差し引いた社会保険料・税金は会社の経費ではありません。「預り金」として一時的に持っているだけです。会社の経費になるのは額面の給与社会保険料の会社負担分です。

なぜ会社が預かるのか

本来、所得税は本人が確定申告で納めるものです。しかし全員が申告するのは非効率なため、給与を払う会社が毎月天引きして代わりに納める仕組みになっています。これが源泉徴収です。

社会保険料も同じ構造です。本人負担分を給与から預かり、会社負担分を上乗せして、会社がまとめて年金事務所へ納めます。会社は集金と送金の窓口を担っているわけです。

だからこそ、預かったまま納め忘れると「本来払うべきお金を会社が持ったままにしている」状態になり、延滞税や不納付加算税というペナルティにつながります。

毎月の流れ:計算 → 支給 → 納付

給与計算額面を確定し、社会保険料と源泉所得税を計算して差し引く
支給手取りを支給日に振込。給与明細を交付する(義務)
納付預かった源泉所得税を税務署へ、社会保険料を年金事務所へ納める

源泉所得税の納付期限は、原則として給与を支払った月の翌月10日までです。ただし、給与の支給人員が常時10人未満の会社は「源泉所得税の納期の特例」を申請でき、年2回にまとめられます。

区分納付のタイミング
原則支払った月の翌月10日まで(毎月)
納期の特例(10人未満)1〜6月分 → 7月10日/7〜12月分 → 翌年1月20日

一人社長や少人数の会社なら、納期の特例を使うと毎月の納付作業が年2回で済みます。ただし半年分がまとまって出ていくため、資金を別に確保しておかないと納付月に資金繰りが苦しくなる点は注意してください。

なお社会保険料は、当月分を翌月末日までに納付するのが原則です(口座振替が一般的)。

住民税:計算しない、預かって届けるだけ

給与から引くもののうち、住民税だけは性格が違います。源泉所得税は会社が税額表を見て計算しますが、住民税は市区町村が計算して金額を通知してくるため、会社は言われた額を天引きするだけ。もっとも純粋な「集金代行」です。

押さえるポイントは3つあります。

  • 前年の所得に対する後払い:毎年5月頃に「特別徴収税額の決定通知書」が会社へ届きます。だから設立初年度や新卒1年目は天引きがないことがあります(前年の給与所得がないため)。
  • 6月〜翌年5月の12回で天引き:所得税と違い6月始まりのサイクルです。通知された年税額が12分割されています。
  • 納付は翌月10日まで:源泉所得税と同じ日に、市区町村へ納めます。

住民税にも納期の特例があり、10人未満なら年2回にまとめられます。ただし源泉所得税の特例とは日付が違うので注意してください。

⚠ 納期の特例は「所得税」と「住民税」で日付が別 源泉所得税は7月10日・翌年1月20日、住民税は12月10日(6〜11月分)・6月10日(12〜翌5月分)。同じ「年2回」でも締めが違うため、混同しないようカレンダーに分けて登録を。

なお、この住民税額の元になるのが、年末調整後に市区町村へ出す給与支払報告書です(次章)。1月に提出した内容が、その年の6月から天引きする住民税に反映されます。

年末調整:1年分の「精算」

毎月の源泉徴収は、源泉徴収税額表による概算です。扶養家族の増減や生命保険料控除などは毎月の計算に反映されていないため、そのままでは1年間の預かり額と本来の税額がズレます。

このズレを年末に精算するのが年末調整です。多くの場合、預かりすぎていた分が本人に還付されます(12月または1月の給与で調整)。

⚠ 年末調整の対象になる人・ならない人 「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していて、12月に給与の支払を受ける人が対象です。一方、その年の給与総額が2,000万円を超える人などは対象外で、本人が確定申告をします。

年末調整では、本人から次のような書類を集めて控除を反映します。

  • 扶養控除等(異動)申告書(毎年、最初の給与支払日の前日までに提出してもらう)
  • 保険料控除申告書+生命保険料・地震保険料の控除証明書
  • 基礎控除申告書・配偶者控除等申告書
  • 住宅ローン控除の関係書類(2年目以降)
  • 中途入社の人は前職の源泉徴収票

年末調整が終わったら、本人へ源泉徴収票を交付し、税務署へ法定調書合計表、市区町村へ給与支払報告書を提出します(いずれも1月31日が期限)。

よくあるつまずき

  • 納付を忘れる:預り金なので手元にお金はありますが、期限を過ぎると不納付加算税・延滞税がかかります。納期の特例なら7月と1月を必ずカレンダーに入れておきます。
  • 扶養控除等申告書を回収していない:提出がないと源泉徴収税額表の「乙欄」が適用され、税額が高くなります。年末調整の対象にもなりません。
  • 賞与の社会保険料を忘れる:賞与にも健康保険・厚生年金がかかります(標準賞与額に対して)。支給後5日以内に賞与支払届の提出が必要です。
  • 社長1人でも必要:役員報酬を払う時点で源泉徴収義務は発生します。「従業員がいないから不要」ではありません。
  • 手取りベースで決めてしまう:役員報酬は原則1年間変えられません。手取りから逆算するときは、社会保険料の会社負担分も含めた総コストで確認します。

まとめ

給与計算はこの4つで回る

  • 構造:額面 −(健康保険・厚生年金・雇用保険・源泉所得税・住民税)= 手取り
  • 性質:差し引いた分は「預り金」。会社の経費は額面と社保の会社負担分
  • 毎月:計算 → 支給(明細交付)→ 納付。10人未満なら納期の特例で年2回に(所得税と住民税で日付が違う)
  • 住民税:前年所得ベースの後払い。市区町村の通知額を6月〜翌5月に天引きするだけ
  • 年末:概算で預かった1年分を年末調整で精算し、1月31日までに法定調書・給与支払報告書

仕組みは一度理解すれば毎月同じことの繰り返しです。人数が増えてきたら、人事労務freeeなどのソフトを使うと計算から年末調整、会計への仕訳連携までが自動化でき、預かり・納付の管理も楽になります。

参考情報

本記事は2026年7月時点の一般的な情報です。保険料率は年度・地域で変わるため、最新は各機関でご確認ください。